
炙甘草湯は、漢方の古典「傷寒論や金匱要略」に記載のある非常に歴史ある漢方処方です。
ツムラ64炙甘草湯の添付文書(医療従事者向けの説明文書)によると、炙甘草湯には、体力がおとろえて、疲れやすいものの動悸、息切れの効能効果が記載されています。
ただ、漢方薬の効能効果には、ある特徴があります。
それは、症状を引き起こしている東洋医学的な病態と病態を改善する漢方薬が一致した場合には、症状が改善していきますが、病態と漢方薬が一致しない場合は、症状が改善しないばかりか、副作用が出てしまうこともあることです。
本記事では、炙甘草湯について詳しく知りたい方に向けて
・炙甘草湯は東洋医学的にどのような働きをする漢方薬なのか
・炙甘草湯の合う方が感じている5つの自覚症状
について傷寒論や金匱要略に記載のある炙甘草湯の条文や炙甘草湯を構成する生薬からまとめました。
適切な漢方薬でつらい症状が改善されることを願っております。
1.ツムラ64炙甘草湯の代表的な2つの効果
ツムラ64炙甘草湯の添付文書には、以下のように記載されています。
体力がおとろえて、疲れやすいものの動悸、息切れ
2.炙甘草湯は東洋医学的にどのような働きをする漢方薬なのか
炙甘草湯が東洋医学的にどのような働きをする漢方薬なのかを説明するために、炙甘草湯について記載のある漢方の古典「傷寒論」「金匱要略」の炙甘草湯の条文を記載します。
漢方の古典には、「~のような時には、この漢方薬が効きます。」と記載されているからです。
1)炙甘草湯の記載のある傷寒論や金匱要略の条文
傷寒論:太陽病下編 50条
傷寒を病んでいるときに血脈とか代脈を打ってきて、心臓の動悸が激しくなったものは、炙甘草湯が主治する。
脈の結代とは、脈の打ち方がゆっくりとしていて、時々休むような脈の状態です。
金匱要略 血痺虚労編19条
虚労で血気が不足し、汗が出て胸苦しくなり、脈が結で動悸がし、行動は普段と同じような状態ではあるが、脈の結がはじまってから、百日たたないうちにあぶない。急な場には11日にて死ぬ。
虚労とは、寝てもとれない疲れがあるような状態です。
肺痿肺癰欬嗽上気病 16条
肺痿の病で、ぬらぬらしたつばきが多く、胸の中がポカポカとしてきて何とも言えず不安で気持ちの悪いものを治す。
肺痿の病とは、熱が胸にあって、それによって咳がでる病気のことです。
その原因は、汗をかきすぎたり、あるいは、嘔吐をしたり、あるいは喉がやたらと渇いて、小便の回数が多い出るため、あるいは便の出が悪く、下剤を飲んで下痢をしたため、これらが原因で重ねて、体液のムラが生じたために起こすと記載されています。
これらの条文にあるように、炙甘草湯は、あまり体力のない方が、汗が出て胸苦しくなったり、過労などした後に汗が出て胸苦しくて動機したりする方、熱が少しあり、咳が多く痰唾が余分に出て、胸の中がポカポカして来て、何とも言えず気持ち悪いもの。
虚弱の人が、無理をし過ぎたためにでてきた病気に効果があります。
(2)炙甘草湯を構成する9種類の生薬から推測すると
甘草(甘・平)
桂枝(辛・温)
生姜(辛。温)
麦門冬(甘・平)
麻子仁(甘・平)
人参(甘・微寒)
阿膠(甘・平)
大棗(甘・平)
生地黄(甘・寒)
桂枝と生姜が辛味の生薬で、後はすべて甘味の生薬で構成されていることが分かります。
甘味の阿膠と大棗は、血を多くします。残りの甘味の生薬は、津液を多くします。(潤いをつけます。)
辛味の生姜は、胃を温め、桂枝は気を巡らせ、甘味の生薬で生まれた潤いを全身に巡らせてくれます。
これにより、肺や心臓にある熱を潤いで落ち着かせ、動機や咳を鎮めます。
(3)炙甘草湯の合う方が感じている5つの自覚症状
今までの内容をもとに炙甘草湯の合う方が感じている5つの自覚症状についてまとめました。
□ もともと体力がないのに、動きすぎて症状がでてきた
□ 動悸がする
□ 咳が出る
□ 喉が渇き、おしっこが良く出て、便秘気味
□ 手足は冷たくなく、どちらかというと温かい
まとめ
炙甘草湯は、体の潤いがなくなり、肺や心臓に熱が生まれ、出てくる咳や動悸などに効果的な漢方薬です。
もともと体力のない方が、無理しすぎたときに起きる症状に応用できます。
炙甘草湯は潤いをつけて熱を冷ませてくれるので、冷えている感覚を持っている方は、あまり合いません。


